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Vol.4 オークションレポート / 2025年11月のサマリー

Vol.4 オークションレポート / 2025年11月のサマリー

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──アートを「感性」で終わらせない。資本と思想の構造を読み解く。

Art Insightでは、作品の背後に潜む市場構造・評価軸・時代精神を掘り下げます。
美術史と金融、哲学とテクノロジーが交差する領域で、
「価値とは何か」を問う知的探求がここから始まります。

読むたびに、世界の見え方が変わる。
思考の精度を高め、自らの審美眼を資産化する旅へ。

「知識に投資することこそ、最高の利息を生む。」
― ベンジャミン・フランクリン

以下、Membership限定記事(期間限定公開中)

【オークション レポート】では、国内外のアートオークション動向をいち早くレポートし、アート市場の趨勢を捉え、投資の参考とすることを目的としています。

1. アート市場の活況を示す記録づくめの11月

 アート業界にとって、11月は例年もっとも重要な月の一つです。クリスマスシーズンや年末に向けて買い手の需要が高まり、また富裕層の資産整理(相続、年度末の換金需要など)を背景に優れた作品の供給も増えます。つまり、需給の両面が活性化し、オークションが一年で最も厚みのあるマーケットを形成する時期となります。

 とりわけ今年の11月は、主要オークションハウスで記録的な結果が相次ぎました。
 本レポートでは、主要オークション会社の取引内容を紹介した上で、それらから推察できる投資のアイデアについて説明します。

クロード・モネ 《睡蓮》が落札された瞬間のオークション風景 (11月18日)
(クリスティーズ 公式Youtubeより)


2. オークション会社別レポート

サザビーズ:新社屋の記念オークションで1日に1000億円以上の取引

 サザビーズ・ニューヨークはは建築家マルセル・ブロイヤー設計の新社屋ビルに移転後第1回目となるオークションを18日に開催しました。このオークションは、エスティローダーの名誉会長である故レナード・A・ローダーのコレクションを出品する「イブニングオークション(Leonard A. Lauder, Collector | Evening Auction)」で、グスタフ・クリムト(Gustav Klimt, 1862-1918)の《エリザベート・レーデラーの肖像》が236,360,000ドル(手数料込・以下同 /  約367.2億円)で落札されました。これはサザビーズ史上最高の落札額かつ20世紀アート作品としても最高額です。本作は、クリムト晩年の傑作に位置づけられていることと、これまで一度も公開市場にでたことのない希少性も加わり、エスティメイト(オークションハウスがつけた予想落札価格)を大きく上回る落札額となりました。

 なお、サザビーズはこの日、「今と現代のイブニングオークション(The Now & Contemporary Evening Auction)」と題したオークションも開催しており、そこではジャン=ミシェル・バスキア(48,335,000ドル / 約75.1億円)イブ・クライン(19,060,000ドル  / 29.6億円)などの高額落札が相次ぎました。また、今年からメガギャラリーのデヴィッド・ツヴィルナー所属となった西村有(1982-)の作品もエスティメイト80,000-120,000の中央値の約7倍となる711,200ドル(約1.1億円)で落札され”1億円アーティスト”の仲間入りとなりました。

 サザビーズは、この日だけで総額で7億600万ドル(約1,097億円)となる同社史上最大の取引額を達成し、新社屋移転に花を添えた形となりました。


367億円で落札されたグスタフ・クリムト 《エリザベート・レーデラーの肖像》
(サザビーズ ウェブサイトより)

 20日にニューヨークで開催された「近代美術イブニングオークション(Exquisite Corpus Evening Auction)」で、メキシコの女性画家フリーダ・カーロ(Frida Kahlo, 1907-1954)の自画像《El sueño(La cama)》が54,660,000ドル(約86.0億円)で落札されました。これは女性アーティストとして史上最高の落札額です。本作は1980年にもサザビーズで取引されており当時は51,000ドルでした。つまりこの作品は45年で価格が1,000倍になったことになります。


女性アーティストとして史上最高の落札額となったフリーダ・カーロの《El sueño(La cama)》
(サザビーズ ウェブサイトより)

 サザビーズ香港で22日に開催された「岡田美術館からのアジアアートの傑作(Masterpieces of Asian Art from the Okada Museum of Art)と題されたオークションが開催され、葛飾北斎(1760-1849)の《冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏》がエスティメイトの5,000,000-8,000,000香港ドルを大幅に上回る21,725,000香港ドル(約4.4億円)、喜多川歌麿(1754-1806)の《深川の雪》が55,275,000香港ドル(約11.2億円)で落札されました。
 特筆すべきはともにエスティメイトの数倍の落札価格となっており、浮世絵の世界的需要の強さを印象づけました。このオークションではほかにも、北斎の美人画である《夏の朝》が20,505,000香港ドル(約4.1億円)、伊藤若冲の《花卉雄鶏図》が9,525,000香港ドル(約1.9億円)で落札されました。


喜多川歌麿 《深川の雪》
(サザビーズ ウェブサイトより)

クリスティーズ - DIC川村記念美術館の《睡蓮》が70億円で落札

クリスティーズはニューヨークで、17日に著名なコレクター夫妻の名前を冠した「The Collection of Robert F. and Patricia G. Ross Weis」と題したオークションで18点の傑作が出品されました。最高落札額となったのはマーク・ロスコ(Mark Rothko, 1903-1970)の《No. 31 (Yellow Stripe)》で、62,160,000ドル(約96.2億円)でした。また、ピカソ(45,485,000ドル)、マティス(32,260,000ドル)、モンドリアン(23,060,000ドル)など、10億円を超える落札が6作品となっています。

マーク・ロスコ他 10億円超えの作品
(クリスティーズ ウェブサイトより)

 同日には、「20世紀イブニングセール(20th Century Evening Sale)」と題されたオークションも開催され、DIC川村記念美術館からの8作品を含む、60作品あまりが出品されました。事前の注目が高かったクロード・モネ(Claude Monet, 1840-1926)の《睡蓮》は45,485,000ドル(約70.4億円)の落札で、同時に出品されたピエール=オーギュスト・ルノワール(Pierre-Auguste Renoir, 1841-1919)は10,410,000ドル、マルク・シャガール(Marc Chagall, 1887-1985)は26,510,000ドルであった。同美術館は今回のオークションで総額160億円前後を売り上げたことになります。

 クリスティーズはこれらの2つのオークションで1日で6億9000万ドル(1,067億円)の取引となり、これは上に書いたサザビーズの1日の取引に匹敵するものでした。


DIC川村記念美術館から出品された作品
(クリスティーズ ウェブサイトより)

その他のオークション

その他目を引いたのは、国内で開催された東西ニューアートによる「設立記念公開オークション」です。1984年に設立された国内でもっとも伝統のあるニューアート・エストウェストオークションズを前身とする東西ニューアートでは、葛飾北斎の肉筆画である《雪中美人図》が出品され、6億2,100万円で落札されました。北斎の過去最高額となったこの作品は円熟期の北斎の力量を示す名品で、1935年に国の「重要美術品」に認定されているものでした。報道によると落札者は家具大手ニトリで作品は似鳥文化財団が運営する北海道小樽市の浮世絵美術館で公開される予定だということです。


葛飾北斎 《雪中美人図》
(東西ニューアート ウェブサイトより)

2. アート投資のための考察

記録づくめの11月オークションでしたが、ここから得られる考察は以下の通りとなります。

 ① アート市場の復活
 ② 浮世絵の人気
 ③ 日本と世界市場の大きな差

まず①について、フランスのLe Monde紙は11月25日に、「ニューヨークでの過去最高の売上により、アート市場は進化している (With record New York sales, the art market is evolving)」と題した記事を掲載し、「今回の成功は単なるバブル的な盛り上がりではなく、希少性・由緒・美術館級の質を備えた作品への需要の高まりによるものだ」と指摘しました。Arts Economicsの統計データによると、世界のアート市場は2023年、2024年と取引金額が低下傾向にありましたが、11月のアート市場は、構造的な回復段階へ向かいはじめたということを示しているといえます。


世界のアート市場の取引金額(Values)と件数(Volume)
(Arts Economicsの統計より)

次に②について、11月のサザビーズ香港で見られた北斎・歌麿・若冲などの落札結果は、浮世絵および日本美術への国際的関心の強さを明確に示しました。エスティメイトの数倍での落札が相次いだことは、浮世絵が依然として世界で評価され、今後も投資対象として有望であることを意味します。特に欧米・アジアの美術館や富裕層の需要が継続しており、良質の作品が価格形成に直結する市場である点も改めて確認できました。

最後に③について、今回の11月オークションは、日本国内市場と世界市場の規模差を示す結果ともなりました。昨年文化庁が公表したレポートによれば、日本国内の全オークション会社を合計した年間取引額は307億円となります。一方で、サザビーズやクリスティーズは1日で1,000億円規模の取引を記録しており、その規模差は歴然としています。
言い換えれば、世界のアート市場で通用するアーティストの作品のみが、高値で取引されるということです。これは西村有の作品が昨年までは、1枚1000万円に満たないものがほとんどであったのに対し、今年にメガギャラリーの一角であるデヴィッド・ツヴィルナーの所属となったことで、作品の落札価格が1億円を超えたことに象徴されています。現代アーティストの作品を投資目的で保有する際は、世界のマーケットを意識している、もしくは海外のギャラリーでの取り扱いが始まったアーティストの作品がねらい目であることが改めて確認されました。

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