Art Insight プレミアム記事(Sample)
Art Insight プレミアム記事(Sample)
──アートを「感性」で終わらせない。資本と思想の構造を読み解く。
Art Insightでは、作品の背後に潜む市場構造・評価軸・時代精神を掘り下げます。
美術史と金融、哲学とテクノロジーが交差する領域で、
「価値とは何か」を問う知的探求がここから始まります。
以下のサンプル記事は、有料購読者のみが触れられる分析の深度と構想力の一端です。
アートを「資産」として、そして「思想」として理解する──それがArt Insightの本質です。
読むたびに、世界の見え方が変わる。
思考の精度を高め、自らの審美眼を資産化する旅へ。
「知識に投資することこそ、最高の利息を生む。」
― ベンジャミン・フランクリン
(以下、Art Insight 有料部分)
- 現代アート、マネーと共鳴 -
2024年5月26日、日本経済新聞の一面トップを飾った見出しは「現代アート、マネーと共鳴」。”現代アートの作品市場が急拡大している。世界のオークション売上高はこの20年で25倍に膨れ上がった。”記事はこの一文で始まり、さらに次のような文が紙面を踊りました。
“市場の活況は、何より「資産」として有望と見なされているからだ。”
“現代アートの収益力は中長期だと一部の株式や不動産を上回る。”
“保有資産3000万ドル以上の超富裕層は、資産の5%程度をアートや時計、ワインなどに投資しているとされる。”
アートはもはや趣味や嗜好の対象にとどまらず、富裕層の資産ポートフォリオの一角を占める投資対象として確立しつつあります。新聞のみならず、テレビ・雑誌でも同様の特集が続きました。
・NHK
「現代アート 高騰のワケとは?」(2023年9月15日)
・家庭画報
「今こそ、教養として知っておきたい アートという資産」(2021年5月号〜全7回)
・週刊東洋経済
「緩和マネーで爆頭! アートとお金」(2021年 2月20日号)
アート作品の値上がり例
注目度が高まるアート投資ですが背景には、作品価格の急上昇があります。
いつくか例をみてみましょう。
アンディ・ウォーホル 《マリリン・モンロー》
ウォーホルは経済成長のさなかにあったアメリカの大量消費社会を背景に、当時アートの世界に導入され始めたシルクスクリーンの印刷技術を用い作品を大量生産しました。彼は1970年に『ライフ』誌に「1960年代にもっとも影響力のあった人物」としてビートルズとともに選ばれています。
ここでとりあげるのはウォーホルのシルクスクリーン作品のなかでもっとも人気の高い《マリリン・モンロー (Marilyn Monroe)》です。この作品は同じデザインで色の異なるものがありますが、ここでは最も人気のある背景がセージブルーで肌の色がピンク色、91.5cm四方のサイスのものに絞りました。1967年に制作されたこの作品は同種のものが250枚印刷されており、世界中のオークションハウスで取引されています。

(Christie's ウェブサイトより)
下のグラフはオークションにおける2000年の落札価格を1として指数化しました。実際の金額は2000年で1万2,000ドルでしたが、その後上昇トレンドとり、オークションにおける最高落札価格は2022年5月にサザビーズで行われたオークションでの30万ドル(約3,900万円)です。これは2000年と比べると25倍の上昇となります。

(世界のオークションデータから筆者がイメージを作成)
草間彌生 《かぼちゃ》
日本を代表する現代アーティストの草間彌生(1929-)は世界のアート市場でもっとも人気がある一人です。アートオークション関連情報を提供しているartprice.comが公表している「The Art Market in 2024」によると、2024年において、草間の作品はオークションで合計1億5,845万ドル(約240億円)取引されており、これは世界全体で第6位の取引額です。(ちなみに1位はルネ・マグリットの3億1,233万ドル。)
ここでとりあげるのは、草間作品の中でももっとも人気のある《かぼちゃ》、その中でもオークションで取引されることの多い0号から2号(四角形の長辺が24cm以下)までのサイズの原画です。
(Christie's ウェブサイトより)
下のグラフはオークションにおける2000年の落札価格を1として指数化しました。実際の金額は2000年から2005年までは1,000ドルで取引されていましたが、その後上昇トレンドとなり、2022年には60万ドルを超える価格で落札されています。これは、作品の価格が20年たらずで550倍へと上昇したことを示しています。
(世界のオークションデータから筆者がイメージを作成)
他の資産とのリターン比較
世界のオークションハウスから取引データを入手・公表しているArtmarket社が作成する指数であるArtprice100によると、アート作品の価格は全体として2000年から2024年6月までで7.2倍となっています。同じ期間の他の資産クラスのパフォーマンスと合わせてみると下のチャートの通りです。
ここでは個々の資産クラスを表す指数として、米国株はS&P 500、日本株はTOPIX、不動産は東証REIT指数を用いています。
(Artmarket日本取引所グループのデータより筆者作成)
アート (Artprice100) 7.2 倍
米国株 (S&P 500) 3.9倍
日本株 (TOPIX) 1.6倍
不動産 (東証REIT指数) 1.5倍
こうしてみると、アートへの投資が他の資産クラスと比べて高いリターンを発揮していることがわかります。ここで使用したArtprice100は16世紀から現代までのアーチスト100人の作品の価格動向を反映させた指数ですが、対象を近現代アートの作品にしぼると上昇率はさらに高まるものと想像できます。
アート投資が注目される理由
アート投資が注目される主な理由には、以下の3点があります。
・価格が上昇している
・資産分散の対象となっている
・インフレ対策
「価格が上昇している」ことについては、これまで書いた通りです。
アンディ・ウォーホルや草間彌生に限らず、アート作品の中には、数年で数倍、十年で数十倍、場合によっては百倍以上に価格が上昇するものもあります。アート作品の価格はオークションなどの市場需給の影響を受けるため、値下がりするものもありますが、ダイナミックな価格変動は投資家にとって魅力的に映ります。
「分散資産の対象となっている」ことについては、オークションなどのセカンダリー・マーケット(二次市場)の充実や価格の透明性の向上が背景となっています。かつては、アート作品を保有してもそれを売却する手段が限られていましたが、あつてここ数年、個人でアートオークションに参加する人も増えてきたことにより、そこでの売買が活発に行われるようになっています。オークションでの落札価格はほとんどの場合、インターネット上で公表されているので、価格の透明性も高まっています。このような流れを受けてアート作品の取引の流動性は高まってきており、資産として保有しやすくなっています。冒頭の日本経済新聞の記事にもありましたが、海外の富裕層は資産の5%をアートなどに振り向けているといわれています。
「インフレ対策」については、下のチャートをみてください。これは上で説明したアンディ・ウォーホルのシルクスクリーン作品の「マリリン・モンロー」の価格推移(実線・左軸)に、米国のインフレ率(点線・右軸)を重ね合わせたものです。二本の折れ線グラフの形状はかなり似ています。つまり、インフレ率が上昇するときに前後して作品の価格が大きく上昇していることがわかります。
2000年以降でインフレ率が最も高かったのは2022年の8%ですが、その時この作品の価格は130%上昇しました。
(IMF、世界のオークションデータより筆者作成)
物価上昇すなわちインフレが叫ばれている昨今ですが、歴史的に見てインフレの経済状況下では、金や土地などの実物資産の価格が上昇する傾向があります。これはアート作品にもあてはまり、一部のアート作品の価格はインフレ率以上に上昇する傾向があり、アート投資がインフレ対策として効果を発揮することがあります。
まとめ
これまでアート作品は美術館でみるもの、もしくは装飾品や嗜好品とみられていました。しかし、ここにきて文化的価値と経済的リターンが融合する資産クラスとみられるようになりました。世界的な富裕層はアート作品を資産ポートフォリオに組み込む理由は明白であり、その流れはいま、日本の投資家層にも確実に広がりつつあるのです。
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